埼玉の丘陵地を吹き抜ける風が、木々の葉を揺らし、微かに芝の匂いを運んできます。
朝日に照らされた緑の絨毯は、まるで呼吸をしているかのように静かに輝いている。
ここは、ただのゴルフ場ではありません。
45ものホールが紡ぎ出す、壮大な叙事詩の舞台なのです。
こんにちは、ゴルフ場専門ライターの芝生 航です。
元々は建設コンサルタントとして、数字と効率を追いかける毎日でした。
しかし、ある寂れた海辺のコースで、自然と対話するように働く老コースキーパーの姿に心を打たれ、ゴルフ場が持つ「物語」を伝えるためにペンを握りました。
この記事では、スコアアップの技術はお伝えしません。
その代わりに、あなたのゴルフライフを何倍も豊かにする「コースを味わう視点」をお届けすることをお約束します。
なぜこの場所は45ホールという壮大なスケールを持つのか。
その数字の裏に隠された、二人の巨匠の魂と、土地の記憶、そして人々の想いを巡る旅へ、ご一緒しましょう。
目次
序章:なぜ「45ホール」なのか?二つの魂が宿る丘陵
ひとつの丘に刻まれた、二つの名門の記憶
この丘陵地には、もともと二つの異なる物語がありました。
一つは、優美な曲線で多くのゴルファーを魅了した「エーデルワイスゴルフクラブ」。
もう一つは、挑戦心を掻き立てる戦略性で名を馳せた「鶴ヶ島ゴルフ倶楽部」。
それぞれが独自の歴史を歩み、多くのゴルファーたちの記憶を刻んできた二つの名門が、2017年に一つの家族となったのです。
旧エーデルワイスは「EASTコース」へ、旧鶴ヶ島は「WESTコース」へと名を変え、合計45ホールの壮大なクラブとして新たな歴史を歩み始めました。
建設コンサルタントだった頃、私は土地の変遷を地図で眺めるのが好きでした。
この場所の古い地図を広げると、二つのクラブが隣り合いながら、まるで互いを意識するように存在しているのが見て取れます。
それは、ただの統合ではない、二つの魂が融合して生まれた、全く新しい物語の始まりだったのです。
壮大な構想の裏側:時代の要請とゴルフへの情熱
なぜ、45ホールという巨大なスケールを目指したのでしょうか。
それは、時代の変化の中で多様化するゴルファーのニーズに応えたいという、熱い想いがあったからに他なりません。
ある時は競技志向で腕を磨き、ある時は家族と和やかにプレーを楽しむ。
そんなゴルファー一人ひとりの「今日」に寄り添える場所でありたい。
この壮大なプロジェクトに関わった一人は、私にこう語ってくれました。
「ここは、ゴルフを愛する全ての人のための『故郷』にしたかったんです」と。
その言葉に、数字や規模だけでは測れない、ゴルフ文化への深い愛情を感じずにはいられませんでした。
第一章:EASTコース – ダイ家の哲学が息づく、優美なる戦略の舞台
風景に溶け込む「オールド・スコティッシュ」の魂
EASTコースに足を踏み入れると、まるでイングランドの丘を散策しているかのような、穏やかで優美な空気に包まれます。
設計を手掛けたのは、世界の名門コースを知り尽くしたダイ・デザイン社。
彼らの哲学は「オールド・スコティッシュ・デザイン」に根差しています。
それは、自然の地形を最大限に生かし、まるで長い年月をかけて自然が創り上げたかのような造形美を追求する思想です。
巧みに配置されたマウンドの連なりは、優美な曲線を描きながら、時にゴルファーの行く手を阻む戦略的な壁となります。
緑の絨毯の上に点在する、白い砂の窪み。
その一つひとつが、ただの障害物ではなく、風景画を構成する美しいアクセントとして見事に調和しています。
ここは、力でねじ伏せるのではなく、自然と対話し、その声に耳を傾けることを求められる場所なのです。
18の問いかけ:名物ホールがゴルファーに試すもの
EASTコースの18ホールは、私たちに18の異なる問いを投げかけてきます。
例えば、美しい池がグリーン手前で静かに待ち受けるショートホール。
あれは単なる池越えの技術を試しているわけではありません。
「君は今、何を選択するのか?」
「リスクを冒して栄光を掴むのか、それとも賢明に安らぎの道を選ぶのか?」
まるで人生の岐路のように、静かに、しかし厳しく、私たちの決断を促してくるのです。
ゴルフボールが描く放物線は、その瞬間の自分の心のありようを映し出す鏡なのかもしれません。
第二章:WESTコース – ファジオ・マジックが刻んだ、歓喜と挑戦の軌跡
「ファジオ・マジック」の正体:地形と対話する彫刻家
EASTコースの優美な世界から一転、WESTコースはダイナミックでドラマチックな表情を見せてくれます。
このコースを改修したのは、”ファジオ・マジック”の異名を持つ世界的設計家、ジム・ファジオ。
私が思うに、彼は設計家というより、大地をキャンバスにする彫刻家です。
元の地形が持つ声に深く耳を傾け、そのポテンシャルを最大限に引き出しながら、新たな命を吹き込んでいく。
大胆な造形の中に、計算され尽くした戦略性が隠されており、プレーするたびに新しい発見と驚きを与えてくれます。
これこそが、世界中のゴルファーを虜にする「ファジオ・マジック」の正体なのでしょう。
27のドラマ:3つのループが織りなす人生の旅路
WESTコースは、アザレア、カメリア、シバザクラという、それぞれ趣の異なる3つの9ホールで構成されています。
私はこの3つのループを、人生の異なるステージを巡る旅路のように感じています。
- シバザクラコース
雄大な打ち下ろしから始まるこのコースは、まるで希望に満ちた若き日の旅立ちのようです。 - カメリアコース
フラットな地形の中に、池や大きなバンカーが巧みに配置され、行く手を阻みます。
これは、人生で乗り越えるべき試練の時を象徴しているのかもしれません。 - アザレアコース
ダイナミックな景観の中に、モダンで洗練されたデザインが光ります。
数々の経験を経て、円熟味を増した人生のステージを歩んでいるような感覚を覚えます。
27のホールが織りなすドラマは、プレーする日の自分の心境によって、全く違う物語を見せてくれるのです。
終章:叙事詩を紡ぐ人々 – コースキーパーが見つめる風景
緑の絨毯を守る、名もなき守護者たちの哲学
この壮大な叙事詩の舞台を、日々守り続けている人々がいます。
コースキーパーと呼ばれる、緑の絨毯の守護者たちです。
私がライターになるきっかけをくれた老コースキーパーと同じように、彼らもまた「土地の声」を聞きながら仕事をしています。
「45ホールは広大ですが、一つひとつのホールの表情は毎日違うんですよ」
あるキーパーは、朝日に染まるグリーンを見つめながら、そう静かに教えてくれました。
芝のわずかな変化、風の向き、光の色。
自然が発する小さなサインを見逃さず、コースと対話する。
彼らのひたむきな情熱があるからこそ、私たちはこの美しい舞台で、自分だけの物語を描くことができるのです。
キャディが語る、ホールに隠された小さな物語
長年、ゴルファーと共にこのコースを歩んできたキャディさんたちもまた、物語の語り部です。
彼らは、設計図には決して書かれていない、たくさんの小さな物語を知っています。
「あの桜の木は、春になると本当に見事なんですよ」
「夕暮れ時、あのホールから見るクラブハウスの灯りは、胸が熱くなります」
季節の移ろい、風のいたずら、木々のささやき。
彼らがそっと教えてくれるエピソードに耳を傾けるとき、目の前の景色はより一層、彩り豊かに見えてくるから不思議です。
よくある質問(FAQ)- あなたの旅を始める前に
Q: EASTとWEST、初心者におすすめなのはどちらですか?
A: スコアを求める、という視点ではなく、「コースを味わう」という視点からお答えしますね。
初めての旅なら、イングランドの丘を散策するような優美なEASTコースはいかがでしょう。
自然との穏やかな対話を楽しめるはずです。
一方、人生のドラマのような起伏に富んだ冒険をしたいなら、WESTコースがあなたを待っています。
Q: 45ホールもありますが、一日で回りきれますか?
A: このコースは、一日で制覇するものではなく、何度も訪れて少しずつ叙事詩を読み解いていくような場所だと私は考えています。
今日はEASTの物語を、次の機会にはWESTのドラマをと、長い年月をかけて付き合っていく。
そんな楽しみ方が、この場所にはふさわしいように思います。
Q: 設計者の特徴が最もよく表れているホールはどこですか?
A: とても良い質問ですね。
もしダイ家の優美な問いかけを感じたいなら、EASTコースの池が絡む美しいショートホールに立ってみてください。
そして、ファジオの魔法に心から驚きたければ、WESTコースのシバザクラにある雄大な打ち下ろしのホールをおすすめします。
きっと、設計者の魂に触れることができるはずです。
Q: 食事やクラブハウスの雰囲気はどうですか?
A: プレーという物語を終えた後、仲間とその余韻を語り合うのに、これほどふさわしい場所はありません。
格調高いクラブハウスの窓から眺めるコースは、まるで一枚の絵画のようでした。
上質な空間で過ごす時間は、あなたの旅をより一層、記憶に残るものにしてくれるでしょう。
実際に訪れた方々の感想を見ても、コースの素晴らしさだけでなく、この上質な空間を評価する声が多いようです。
旅の計画を立てる際には、こうしたオリムピックナショナルの口コミを参考にしてみるのも、物語をより深く楽しむためのヒントになるかもしれません。
Q: アベレージゴルファーでも楽しめますか?
A: ご安心ください。
何を隠そう、私もスコア100前後の、ごく普通のアベレージゴルファーです。
大切なのは、スコアを忘れてみること。
目の前の景色に隠された物語を探すことに集中すれば、このコースは誰にでも最高の感動を与えてくれます。
私たちも、この壮大な物語の主人公なのですから。
まとめ
オリンピックナショナルゴルフクラブは、単なる45ホールの集合体ではありません。
それは、二つの名門クラブの記憶を受け継ぎ、ダイ家とジム・ファジオという二人の巨匠が魂を込め、そしてコースを愛する人々の想いが幾重にも重なった、壮大な叙事詩です。
EASTコースの優美な問いかけ。
WESTコースのドラマチックな旅路。
そのどちらもが、あなたのゴルフライフに新たな1ページを加えてくれることでしょう。
この記事を読んで、次のラウンドではただボールを打つのではなく、目の前の景色に隠された物語を感じてみたくなったなら、これほど嬉しいことはありません。
さて、次のホールには、どんな物語が待っているだろうか。